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【解説】介護施設経営に重要な組織の生産性を高める「目標設定」の方法

介護組織力

介護業界の一番の課題は「人手不足」。2025年には32万人、2040年には69万人の介護人材が不足すると言われています。

これからの介護現場は、少ない人数でサービスの質を維持・向上することが求められている背景から、業務効率化(ICTやIoT等の利活用)が少しずつ進んでいます。

それと同時に、組織(チーム)の成長も求められます。人手が少ない体制では、チームの連携、すなわちチームワークの向上が不可欠です。

チームワークの向上において、重要な考え方の1つが組織(チーム)の目標設定です。目指すべき目標やルールがあると、業務の判断スピードやケアの質も変わってきます。

今回は、組織の目標設定を中心に目標とは何か、具体的な目標設定の方法を解説します。経営者・管理者の方はぜひ最後までご覧下さい。

目次

介護業界の現状

第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数 図解
https://www.mhlw.go.jp/content/12004000/000804129.pdf
厚生労働省:第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
※この統計には退職者・離職者は含まれていない

冒頭でもお伝えしましたが、日本の少子高齢化は更に進み、これから介護業界は、更なる人手不足が見込まれています。介護人材の全体数は増え続けていますが、需要と共有が追いついてないのが現状です。

組織(チーム)における「目標設定」の重要性

組織に求められる3つの要素

経済学者チェスター・バーナードは、著書「経営者の役割」において、組織成立の3つの要素を定めています。

  1. 共通目的
  2. 意思疎通
  3. 貢献意欲

組織は、

  • 個人が1人では実現し得ないこと(共通目的)を、
  • 2人以上の人間が相互に意志を伝達しながら(意思疎通)、
  • その目標に貢献しようとする意欲を持って(貢献意欲)

達成を目指すときに成立すると定義しました。

「グループ」と「チーム」の違いとは

グループとチームの違いは、「共通の目標」あるかどうかだとも言われています。「共通目標」がない組織は、単なグループであり、チームにはなりません。

  • グループ:共通の目標や理念がない組織
  • チーム:共通の目標や理念がある組織

優れた組織(チーム)は理念と目標が浸透し、関係性も良好

組織パターン表
縦軸に理念の浸透度、横軸に関係性

上の図は、組織のパターンを「理念(目標)・ルールの浸透度」と「関係性(コミュニケーション・情報伝達)」の2軸で表したものです。

理念と関係の両軸が共に高いのが④一体感のある組織(右上)で、優れた組織であると言えます。

それぞれの組織の特徴については、別のコラム記事で解説していますので、こちらへどうぞ。
【離職率改善】介護現場の人間関係を改善する「理念の浸透」の重要性

優れた組織を作るには「目標設定」が重要である

優れた組織を作るためには、「目標設定」はとても重要であり、必要不可欠なものであるということです。

単純に考えても、ゴールや目指すべきところがない状態では、メンバーの力は分散してしまい、関係性の悪化などにも繋がることは容易に想像できるでしょう。

介護施設が目標を設定するメリット・デメリット

介護施設において目標設定は重要と理解していても、実際には「本当に必要なのか」「設定することで現場に負担が増えないか」と悩む事業者も少なくありません。

特に人手不足や業務多忙な現場では、目標設定が形式的になってしまうケースも見られます。

そこで本章では、事業者目線で「介護施設に目標を設けることによるメリット・デメリット」を整理し、実際の運営にどう影響するのかを具体的に解説します。

メリットデメリット
組織の方向性が統一される
職員の行動が具体化しやすい
稼働率・収益の改善につながる
人材育成・評価がしやすくなる
形骸化すると逆効果になる
現場の負担増につながる可能性がある

介護施設が目標を設定するメリット

介護施設において目標を明確に設定することは、単なる方針提示にとどまらず、組織運営全体に大きな影響を与えます。

まず大きなメリットとして挙げられるのが、組織の方向性が統一される点です。現場では職員ごとに価値観や優先順位が異なるため、目標が曖昧な状態では判断基準にばらつきが生じやすくなります。しかし、明確な目標があることで、「何を優先すべきか」が共有され、チームとしての一体感が生まれます。

また、職員の行動が具体化しやすくなる点も重要です。たとえば「稼働率を上げる」という目標があれば、営業活動の強化や既存利用者の満足度向上など、日々の行動に落とし込みやすくなります。これにより、現場レベルでの改善活動が活発化します。

さらに、目標設定は稼働率や収益の改善にも直結します。特にデイサービスでは稼働率が経営に大きく影響するため、数値目標を設定することで、経営状況の可視化と改善スピードの向上が期待できます。

加えて、人材育成や評価にも活用できる点は事業者にとって大きなメリットです。目標に対する達成度をもとに評価を行うことで、公平性のある人事評価が可能となり、職員のモチベーション向上にもつながります。

介護施設が目標を設定するデメリット

一方で、介護施設における目標設定には注意すべきデメリットも存在します。

特に多いのが、目標が形骸化してしまうケースです。形式的に目標だけを設定し、現場に浸透していない場合、かえって「やらされ感」が強まり、職員のモチベーション低下につながる可能性があります。目標は掲げるだけでなく、日々の業務に結びつける運用が不可欠です。

また、目標設定や進捗管理が現場の負担になる点も見逃せません。特に人員不足の施設では、会議や記録業務が増えることで、現場の業務圧迫につながることもあります。そのため、無理のない範囲で運用できる仕組みづくりが重要です。

介護現場では、目標が曖昧な組織は多い

これまで多くの介護施設を調査してきた筆者の所感ではありますが、「②意思疎通」と「③貢献意欲」の条件を満たしてる介護現場は多いです。

しかし、「①共通目的」が曖昧で、組織(チーム)としてまとまっていない集団が多いと感じています。ほとんどの介護施設では「理念」や「方針」が存在しますが、

それを本気で目指せているでしょうか…
お飾りになっていないでしょうか…
職員にしっかり浸透しているでしょうか…

意外とこの部分が見落とされがちです。

目標設定が曖昧な組織は崩壊する

例えば、社会人のサッカーチームがあったとします。このチームには「全国大会優勝を目指しているメンバー」と「楽しくサッカーできればいいと思っているメンバー」の2種がいるとします。このチームは果たして組織として成立するでしょうか。

筆者の実体験ですが、当然、内部でさまざまな意見が飛び交い、組織として崩壊することが多いです。

強くなりたいと思っているメンバーは、周りのメンバーにもそれを求めます。例えば、「もっと走れるようにしないと勝てないから、タバコは辞めよう」とか、「練習の機会を増やそう」とか…。しかし、楽しくできればいいと思っているメンバーは、そんなことまでしなくもていいと思ってしまいます。

チームを考える上で、目標設定をしっかりしておくことは、とても重要です。曖昧な目標やメンバー間で認識のズレがある目標はは人間関係のトラブルや、意見対立の原因になり、チームを維持していくことが非常に難しくなります。

曖昧な目標設定はトラブルのもと。離職の原因になることも

介護職の離職理由 棒グラフ
公共財団法人 介護労働安定センター 「令和元年度 介護労働実態調査結果について」

介護施設では、その目標が「理念」や「方針」になります。しかし、この目標が曖昧だったり、理解や浸透ができていなかったりすると、メンバーはそれぞれの価値観や意見を言い合い、派閥の形成や人間関係のトラブルへと発展します。このような状態に陥ってしまっている介護施設はとても多いです。

実際に、介護現場の離職理由の第1位は「人間関係に問題があった」となっています。全ての人間関係の問題が「目標設定」によるものだと言えるわけではありませんが、大きな原因となっていることは間違いありません。

3つの「目標レベル」を理解する

次の3つの内、チームの目標設定はどれがいいと思いますか?30秒ほど考えていただければと思います。※目標として適切かは一旦考えないことにします。

A:利用者の目をみてしっかり挨拶をする。
B:利用者満足度調査で、90%以上を目指す。
C:この施設から、日本を元気にする

答えは、どれも正しいです。なぜなら、目標はチームのレベルや状況に応じて変化するからです。

「目標」はチームのレベルにあわせて変えるべきで、具体的には目標のレベルは3段階に分けられます、

  • 行動レベル
  • 成果レベル
  • 意義レベル

順に解説していきます。

行動レベル

行動レベルの目標設定とは、チームメンバーが具体的に取り組むべき行動の方向性を示したものです。

選択肢Aの目標で「利用者の目をみてしっかり挨拶をする」という定性的な行動そのものが目標になります。

行動レベルの目標設定には、それぞれのメンバーが自らの取るべき行動を明確にしやすいというメリットがあります。「利用者の目をみて挨拶をする」という具体的な行動目標は、誰もが取り組みやすく、すぐに行動にうつすとができます。

デメリットは、新たなアイディアが生まれにくく、行動目標以外のアクションは起きにくくなります。

成果レベル

成果レベルの目標設定とは、チームとして手に入れるべき具体的な成果を示したものです。

選択肢Bの目標で「利用者満足度調査で、90%以上」という定量的な満足度が目標になります。

意義レベル

意義レベルの目標設定とは、最終的に実現したい抽象的な状態や影響を示したものです。

選択肢Cの目標で「この施設から日本を元気にする」という意義が目標です。意義レベルの目標は抽象的であるがゆえに、とるべき行動がわかりづらく実践しづらいデメリットがあります。

一方で、目標に合わせた具体的なアイデアを想起しやすく、様々な行動に移すことが可能です。

例えば、このようなアイデアは想起しやすいでしょう。

・現状や常識にとらわれない取り組みができないか
・YouTube等で成功事例や取り組みを発信できないか
・介護業界のイメージを変えるためにスタッフのユニフォームを変えてみないか などなど…

3つの目標レベルを連動させる重要性

目標レベルの意味と特徴

3つの目標レベルには、それぞれ特徴があり、どれが良い悪いというものではありません。

そこで重要になるのが、成果レベルの目標設定です。

行動目標と意義目標の中間的な役割を果たし、現実的な目標設定をすることで、意義を見失わず、行動もできる状態になるからです。この3つの目標レベルがしっかりと繋がっていることがとても重要であり、効果的な目標になります。

介護施設の目標例(年間目標・フロア別・職種別の具体例)

介護施設の目標設定では、「何を目指すか」だけでなく、「どの単位で設定するか」が非常に重要です。

事業所全体の年間目標だけでなく、フロアごとの運営目標や、職種別の役割に応じた目標を設定することで、より実践的で現場に浸透する目標管理が可能になります。

ここでは、介護施設で活用できる具体的な目標例を「年間」「フロア別」「職種別」に分けて紹介します。

介護施設の年間目標例(事業所全体の具体例)

介護施設の年間目標は、経営方針や事業計画に直結する最も重要な指標です。数値と方針の両面から設定することがポイントになります。

年間目標例

  • 稼働率90%以上を維持する
  • 新規利用者を年間○名獲得する
  • 利用者満足度アンケートで平均4.5以上を達成する
  • 職員の離職率を10%以下に抑える
  • 事故報告件数を前年比20%削減する

年間目標では、特に「稼働率」「収益」「人材」「安全管理」の4つの軸を意識するとバランスの良い設定になります。

また、抽象的な理念だけでなく、「数値化された目標」を組み合わせることで、進捗管理がしやすくなります。

介護施設のフロア目標の具体例(現場単位)

フロアごとの目標は、日々のケアや現場改善に直結する重要な要素です。現場職員が「自分ごと」として捉えられる内容にすることがポイントです。

フロア目標例

  • レクリエーション参加率を80%以上にする
  • 転倒事故を月○件以内に抑える
  • 食事摂取量の平均を向上させる
  • 利用者とのコミュニケーション時間を1日○分以上確保する

フロア目標は、利用者の生活の質(QOL)に直結する内容を中心に設定すると効果的です。

また、「できた・できない」が明確になる指標にすることで、振り返りや改善につなげやすくなります。

職種別に、みる介護施設の目標例(役割別の具体例)

職種ごとに目標を設定することで、それぞれの専門性を活かした組織運営が可能になります。

介護職員の目標例

介護職員は、日々のケアの質を高めることが主な役割となります。

  • 利用者一人ひとりに合わせたケアの実践
  • ヒヤリハット報告の積極的な提出(月○件以上)
  • レクリエーションの企画・実施回数を増やす

現場に近い立場だからこそ、「行動レベル」の目標設定が重要になります。

生活相談員の目標例

生活相談員は、利用者・家族・外部機関との調整役を担います。

  • 新規利用者の契約件数を月○件達成する
  • 家族との面談実施率100%を維持する
  • ケアマネジャーとの連携強化(訪問・連絡回数の増加)

営業的な視点と関係構築の両方を意識した目標が求められます。

看護職員の目標例

看護職員は、健康管理と医療連携の中心的役割を担います。

  • バイタルチェックの精度向上と異常の早期発見
  • 医療機関との連携強化(情報共有の迅速化)
  • 感染症対策の徹底と発生防止

安全・医療面に関する質の向上が主な目標となります。

管理者・施設長の目標例

管理者は、施設全体の運営・マネジメントを担う立場です。

  • 稼働率・売上目標の達成
  • 職員定着率の向上
  • 職場環境の改善(満足度向上)
  • 地域との連携強化(営業・広報活動)

経営視点と組織マネジメントの両方をバランスよく設定することが重要です。

専門家の声

介護施設の目標設定は、「年間(全体)」「フロア(現場)」「職種(役割)」の3つの視点で整理することで、実効性の高い運用が可能になります。
特に重要なのは、それぞれの目標がバラバラにならないよう、「理念や事業所の方針と連動しているか」を常に意識することです。
現場に浸透する目標は、単なる数値ではなく、「行動につながる具体性」を持っています。自施設の状況に合わせて、無理のない目標設定を行いましょう。

目標設定を見直す

ほとんどの介護施設では、施設や法人の理念や方針が掲げられています。全てとは言えませんが、この理念や方針のほとんどが「意義目標」にあたるものが多いです。
例えば、「共に生きる…」「自分らしい暮らしを…」「高齢者の尊厳を…」などです。

また、成果目標や行動目標にあたるものは、存在しないという施設も多いのではないでしょうか。当然、絶対に必要なものかと言われると、必ずしも必要なものではありません。

しかし、人数や規模が大きくなってくると、意義目標だけでは、抽象的でさまざまな捉え方ができてしまうこともあり、統率が取りにくくなります。また、新人職員や中途採用者が入った時に、この3つの目標があることで、やるべきことと目指すべきものが明確になっていることは、大きなメリットです。

「意義目標」「成果目標」「行動目標」の内容と役割をしっかりと理解していだき、現在の自分たちの組織の目標と照らし合わせいただければと思います。組織全体で再度見直し、現場からも意見を求め、新たに作成してみることも必要かもしれません。

その際は、以下のポイントを押さえておくことが重要です。

☑ 組織(チーム)の活動の意義が明確になっているか。
☑ その組織(チーム)の創出すべき成果が明確になっているか?
☑ その組織(チーム)は推奨している行動が明確になっているか?
☑ その組織(チーム)では、意義、成果、行動が適切に接続されているか?
☑ その組織(チーム)が、活動する意義、創出すべき成果、推奨される行動を日常的に意識できているか?

有名なザ・リッツカールトンのゴールドスタンダードは、意義目標や行動目標などの参考になると思いますので、よければ、ご覧になってみて下さい。

まとめ

今回は、介護施設における「目標設定」について解説させていただきました。介護施設では、さまざまな人材が働いています。常勤、非常勤、ベテランから新人まで能力もさまざまです。
まずは、目標をしっかり定め、目指すべき方向と、取るべき行動を統一しておくことで、判断基準が明確になり、現場での混乱やトラブルも防止にも繋がります。

また、「行動目標」は、時にメンバーを”作業”の奴隷にし、「成果目標」は、時にメンバーを”数字”の奴隷にするとも言われています。これは、介護業界では、ともて耳が痛い話ではないでしょうか。

介護現場では、日々、目の前の業務をこなすことでいっぱいいっぱいの状態が続くことも多いです。このような状態に陥ると、つい「なぜこれをしているのか」「これが何に繋がっているのか」という根本的な部分を忘れがちになります。

介護の本質を見失わないためにも、事業所の「意義目標」がしっかり設定され、浸透していることが重要です。そうすることで、メンバー1人1人が、生むべき成果や、とるべき行動について意思を持つことができるようになります。

繰り返しになりますが、チームを強くするためには、「目標の浸透」絶対条件となります。人手不足などで、時間の確保は難しい部分はあると思いますが、定期的な研修などで、理念や方針について振り返る時間を設けることも大切です。

また、理念を浸透させるためには、経営者や管理者の言動がとても重要になります。
本気で掲げてる目標を目指しているか、これが伝わらなければ、どれだけ良い目標であってもメンバーをその気にさせることはできません。トップの本気度が伝わることで、チームワークはより強固なものとなっていくでしょう。

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