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訪問介護事業所の経営者・管理者にとって、「特定事業所加算」を取得するかどうかは大きな判断です。
加算は収益を改善する一方で、要件維持や実地指導・返戻(レセプト返還)のリスクも伴います。
本記事では、特定事業所加算の目的・算定要件(体制・人材・重度者等対応・運用実績)・改定による注意点・メリットとデメリット(返戻リスク含む)を、実務で使えるチェックリストと運営指導対策への導線まで一貫して解説します。
(監修:片山海斗/Professional Care International 株式会社)
この記事でわかること

まず最初に、特定事業所加算の目的とその理由について解説していきます。
介護保険制度における訪問介護など在宅サービスの質を確保・向上するため、経験豊富で専門性の高い職員体制を有し、適切な指導・研修・サービス管理を実施している事業所を評価すること。

専門家の声私が現場で支援するとき、事業所経営者の多くは「加算=お金、だけど面倒」という先入観を持っています。ですが制度設計の本質は“組織の強化”です。
加算を取得するプロセスで、研修体系、記録・監査対応、医療連携が必然的に整備され、長期的に見れば事業の安定につながります。


現在の自社体制と比較し、加算取得の参考にしてください。
| 区分 | 加算率(訪問介護費に対して) | 主な対象 | 主な要件 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| Ⅰ | 約20% | 大規模・モデル事業所 | ・管理者専従(兼務不可) ・サ責4名以上 ・月600件以上の訪問 ・要介護4・5が20%以上 ・年間研修+OJT実施 | 最上位加算。教育・運営ともに地域の中核的事業所向け |
| Ⅱ | 約10% | 中規模事業所 | ・管理者兼務可 ・サ責3名以上 ・月400件以上 ・要介護4・5が15%以上 ・研修体制整備 | 高水準の体制を評価。Ⅰより条件がやや緩和 |
| Ⅲ | 約5% | 中小規模事業所 | ・サ責2名以上 ・月300件以上 ・要介護4・5が10%以上 ・年間研修・事例検討 | 比較的取得しやすい中位加算 |
| Ⅳ | 約2% | 小規模事業所 | ・サ責1名以上 ・月200件以上 ・研修計画・苦情対応体制あり | 令和3年度創設。小規模事業所の体制整備を評価 |
| Ⅴ | 約1% | 新規・小規模事業所 | ・職員配置基準クリア ・研修(年2回以上) ・事故・苦情体制あり ・処遇改善加算(Ⅰ〜Ⅲ)算定 | 令和6年度新設。初めての加算取得を目指す事業所向け |
| 評価項目 | 内容 | 審査で見られるポイント |
|---|---|---|
| 運営の安定性 | 訪問件数・職員配置 | 利用者数・勤務体制の安定度 |
| 重度者対応力 | 要介護4・5の割合 | 継続的な支援が可能か |
| 研修・育成体制 | 年間研修・OJT・事例検討 | 計画・実施・記録の有無 |
| リスク管理体制 | 事故・苦情・再発防止 | 会議・報告・再発防止策の記録 |
| 職員定着と処遇 | キャリアパス・評価制度 | 定着率や人材育成の仕組み |
届出時のポイント
- 研修記録や事故・苦情報告書の整備は必須
- 直近3か月の訪問実績を証明できる資料を準備
| 事業所規模 | 狙うべき加算 | 戦略のポイント |
|---|---|---|
| スタッフ5名以下 | Ⅳ〜Ⅴ | まずは基礎体制整備からスタート。研修と苦情記録の充実が鍵。 |
| スタッフ10名程度 | Ⅲ | 訪問件数・重度者割合のバランスを取りつつ、教育体制を強化。 |
| スタッフ20名以上 | Ⅱ〜Ⅰ | 専従管理者・OJT体制を整備し、地域の中核事業所を目指す。 |



経営者は「何%か?」で迷いがちですが、重要なのはどの区分で継続的に要件を満たせるか。
いきなり最上位を目指すより、Ⅱで手堅く運用を回し実績を積んでからⅠに上げる戦略が功を奏します。
また、加算率(何%か)は区分やサービス種別によって差があります(訪問介護であれば、区分Ⅰでおおむね数%〜10%台の加算率となるケースが多い。
具体数値は自治体・年度改定で変動)。必ず最新の介護報酬表を確認してください。(厚生労働省:令和6年度介護報酬改定について)




体制要件は「事業所として安定的にサービスを提供できるか」を示すものです。
下記は、チェックリスト化できる代表的項目と概要を記しています。



体制要件の指摘で多いのは「書類はあるが運用が伴っていない」ケース。
例えば月次会議の議事録があっても、実際の運用(改善の実行)を示すフォローアップがないと評価は厳しいです。運営指導で指摘される多くは運用面の“空白”です。






人材要件は、事業所の「質」を最も直接的に示します。要件は区分によって求められる内容が厳しくなります。
ここでは「主な人材要件」「改定後の注意点」について詳しく解説します。



人材要件で陥る事業所は、「誰がどういう研修を受けるか」の運用ルールが曖昧なこと。月次で研修カレンダーを作り、受講履歴を人別に管理するだけで実地指導の対応力は格段に上がります。
私はクライアントに簡易な研修管理シートを導入するだけで、監査対応がスムーズになった事例を多く持っています。


重度者等対応は、在宅で重度の利用者に対応できるかどうかの評価軸です。医療的ケアが必要な利用者が増えるなか、ここが算定の肝になります。
ここでは「主な重度者等対応要件」「改定後の注意点」について詳しく解説します。



医療連携の有無は“書類上の有無”ではありません。主治医とのやり取り記録や訪問看護とのカンファレンス記録があるかを見られます。
私が支援した事業所では、主治医との月次連絡メモを残す運用に変えただけで、監査での評価が大きく改善しました。
特定事業所加算を算定するには、単に体制を整えるだけでなく、実際の運用状況(実績)が一定水準を満たしている必要があります。
ここでは「訪問件数」「重度利用者の割合」「研修実績」について詳しく解説します。
事業所として安定した訪問介護の提供実績があることが求められます。
これは、単発的なサービスではなく、地域の中で継続的に支援を行っているかどうかを評価するための指標です。



この“訪問件数”は、単なる数字ではなく“運営の安定度”として審査されます。
返戻リスクを避けるには、実績報告書と請求データが完全に一致していることが大前提です。
私の支援先でも、実績記録のズレが原因で加算が一時的に認められなかったケースがありました。
加算を算定するためには、重度の要介護者や認知症利用者への支援実績が一定割合以上必要です。
これは、事業所の「重度対応力」を評価するもので、軽度者中心の運営では算定対象外になることもあります。



重度利用者の割合は、データ上の数字だけで判断されません。
“重度者への支援体制”や“職員の対応スキル”が伴っているかも見られます。
形式的に割合を満たしていても、実地指導で“対応力が伴っていない”と判断されると返戻のリスクがあります。
職員に対して、定期的に質の高い研修を実施していることも重要な要件です。
特定事業所加算では、「人材育成に積極的であること」が加点対象となるため、研修の内容・頻度・記録の整備が審査の焦点になります。



研修実績は「書面上の開催」で済ませようとする事業所が多いですが、実地指導では「参加率」「内容の妥当性」「実施報告書」まで確認されます。研修体制を「形式」ではなく「仕組み」で整えるのが鍵です。
特定事業所加算の算定には、法定研修の実施だけでなく、独自の研修体系が重要視されます。
例えば、新人研修・中堅研修・管理者研修など、職員のレベルに応じたステップアップ型の教育設計を行うと、現場の質向上につながります。
また、外部講師を招いたケーススタディや、事例検討会を月1回程度設けると、研修内容が“実践的”になります。
「研修をやった証拠」を残すだけでなく、「学びをどう現場で生かしたか」まで評価できる仕組みを整えると、加算審査でも高評価を受けやすくなります。
| チェック項目 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 実績データ | 月次で集計・保管 | 3年以上の保存が望ましい |
| 記録の整合性 | 訪問スケジュールと報告書が一致 | 二重記録・漏れに注意 |
| 研修の裏付け | 実施報告書+写真や配布資料を残す | 返戻防止の決め手になる |


令和6年度の介護報酬改定では、特定事業所加算に関する運用・評価軸がさらに明確化・厳格化されつつあります。
以下、訪問介護の経営者が押さえるべきポイントです。



改定で最も変わったのは「実効性の確認」です。以前は形式的に書類があればよかった場面でも、今は「運用の証拠(ログ・出席・実施の痕跡)」を求められます。
このため、導入するルールは必ず「誰が」「いつ」「どのように」実施したかを残す運用にしてください。





実例として、私が支援したA市の訪問介護事業所は加算Ⅰ取得後、3年で離職率が約半分になり、利用者満足度も上昇しました。加算による収益を研修と処遇に再投資した「好循環」が生まれた事例です。
返戻の発生は、経営に直接打撃を与えるだけでなく、信用・指定維持にも波及します。
事例A:資格要件の見落としによる返戻
事例B:研修記録の不備による返戻
事例C:運用の不備(夜間対応の実効性)
返戻が発生すると、過去に遡って加算額全額の返還を求められることがあり、突発的なキャッシュアウト(数十万〜数百万規模)につながることがあります。また、返戻は指定更新や自治体の評価にも悪影響を及ぼします。



返戻で最も多いのは「書類はあるが証拠が弱い」パターンです。例えば研修をやっていても、講師の資料・出席名簿・簡単なアンケートで受講の事実が裏付けられていないとダメです。
経営者からは「返戻が怖いから申請をためらう」という相談を多く受けますが、正しく準備すれば返戻リスクは大きく低減できます。外部コンサルに頼むメリットはここにあります。 第三者の視点で証跡を点検し、指摘ポイントを事前に潰せるからです。
実際、私たちが監査前チェックを行った事業所では、平均で返戻リスクを70%以上削減できています。返戻が出た事業所の多くは、最初に専門家を入れていれば防げたケースも多く、投資対効果は高いと断言できます。


下記は運営指導・レセプト返戻を未然に防ぐための日常チェックリスト(社内運用用)です。PDF・Excelで配布するテンプレ化も推奨。
日次/週次チェック
月次チェック
年間チェック



上記チェックは形式的に回しても意味が薄いです。月次会議では必ず「改善アクション」を決め、次回会議でフォローする運用を入れてください。私のクライアントでは、この「改善の追跡」が監査での最良の防御策になっています。
Ⅰはより厳格な体制・人材・重度者対応を要する一方、Ⅱは一部要件が緩和されます。加算率もⅠの方が高く設定されている場合が多いです。実務では、Ⅱを先行取得し、運用を安定させてからⅠへ移行する戦略が一般的です。
区分や地域・年度改定によって変動しますが、訪問介護では区分Ⅰで数%〜10%台、Ⅱで数%程度の上乗せになるケースが多いです。正確な数値は最新の介護報酬表を確認してください。(厚生労働省:令和6年度介護報酬改定について)
自治体判断や個別の事情により異なりますが、速やかに補充計画を提出することで猶予や救済が認められることもあります。事前に各自治体と相談することを推奨します。



特定事業所加算は「制度に詳しい事業所」と「現場の運用がしっかり回る事業所」を評価します。加算そのものを目的化すると脆弱になりますが、加算を「サービス改善のエンジン」にすると、利用者満足・職員定着・収益性のすべてにポジティブな影響が出ます。
私たちの支援経験では、申請前の“プロによる事前診断”が最も費用対効果が高く、返戻や監査での指摘を大幅に減らせます。特に訪問介護は運用の変化が激しく、定期的な外部点検を推奨します。
特定事業所加算の取得・維持には「知識」だけでなく「運用力」が必要です。PCIが提供する主な支援は以下です。
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最後に一つだけ強く言いたいのは、「完璧を目指す必要はないが、継続可能な仕組みを作ること」。これが加算の取得と維持の鍵です。
まずは小さなチェックから始めてください。必要なら我々が全力でサポートします。
「介護施設での離職者が絶えない…」 「介護施設の利用者様を増やしたい…」など
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