【完全版】通所介護(デイサービス)開業に必要な準備・資金・指定基準を解説

デイサービス開業

2045年まで介護サービスの需要が高まる中で、まだまだ需要があり年々増加傾向にある通所介護(デイサービス)

「将来、通所介護を立ち上げたい」
「これから介護事業に参入したい」
「実際いくらくらい開業資金がいるの?」

そんな疑問にお答えすべく専門家監修のもと1万字で解説している記事です。将来立ち上げたい方・通所介護の現状を知りたい方は必読の記事です。

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目次

ニーズが急増する通所介護(デイサービス)の現状

なぜ今デイサービスなのか

急激な少子高齢化の進展により、団塊の世代が75歳以上になる2025年に向けて社会保障制度の改革が進められています。そこで、2025年、2045年までどの介護事業形態よりも急増する通所介護(デイサービス)。

内閣府:高齢化の状況及び高齢社会対策の実施の状況に関する年次報告
厚生労働省:介護サービス施設・事業所調査の概況(2011~2019)
総務省統計局:人口推移

上記のデータは、2011年~2019年(実数値)まで通所介護事業所数の平均値を割り出し、将来高齢者人口推移から通所介護の不足数を計算した数値になります。

データから読み取れるのは「2045年までデイサービスの需要が伸び続ける」ということです。特に都心部は需要が高まりつつあるのでビジネスチャンスといえます。

改めて知っておきたい介護事業の特徴

介護事業には3つの特徴があります。

  1. 高い社会性
  2. 医療との連携
  3. 紙書類の重要性

社会性が高い

介護は、人間の身体を扱うので医療と同様に「扱いに細心の注意を要する」仕事です。身体だけではなく精神への対応が必須です。

また、地域密着するビジネスモデルなので地域を作っていく、地域を支えていくという点でも社会性が高い仕事だといえます。

医療との連携が必須

介護を必要とする高齢者の多くが、高血圧や認知症など持病を患っているのが一般的です。

日常の介護サービスを通じて「利用者の身体チェック」をおこない、日常の変化を捉えることが必要です。異常を感じた場合は、ケアマネジャーへの報告・かかりつけ医・病院とスムーズに連携できる環境が必要です。

紙の書類が大切

ペーパーレスが求められる時代ですが、介護事業所は未だに紙の書類が大切です。

特に原則3年に一度自治体から実地指導がおこなわれます。実地指導とは簡単に言うと介護サービスを提供するなかで不正をしていないか市の職員が調査することです。ですので、介護運営に係る書類(実地指導に必要な書類)は適切に保管・作成をしておきましょう。

※最近は自治体にもペーパーレスが推進されていますが、ICT(介護記録ソフト等)を活用していても紙媒体で保存しなければならないという規定があります。市町村によって異なるので立ち上げの際に聞いておくのが吉です。

通所介護(デイサービス)とは

通所介護は一般的に「デイサービス」と呼ばれています

送迎車等でデイサービスに通う利用者に日帰りで食事や入浴・排泄などの身体的介護とレクリエーション(※)と呼ばれるサービスを提供します。

また、通所介護は「介護する家族の負担軽減」に大きく役立っています。

※レクリエーションとはデイサービスなどの介護サービス事業所において、集団又は個人の趣味や能力、ニーズに応じ実施される介護サービスで、生きがいやその人らしい生活を送れるようQOL(生活の質)を向上させる目的で行われます。

通所介護のターゲット(要介護度分布)

厚生労働省:介護給付費等実態統計月報(令和3年4月審査分)結果の概要

通所介護のターゲット(ご利用者)は介護保険が適応された方です。

要支援・要介護の2つに分かれており、1日に利用する回数が変わることで売上も変動することを理解しておく必要があります。

通所介護の収益の仕組み

本稿は開業に関する記事のため詳細は割愛しますが、介護サービスの収益は1日10,000円という計算方法ではなく「単位数×等級=売上」という計算方法で収益が成り立っています。

1単位あたり10円と計算すると大まかな売上は計算できます。

介護サービスは利用者の負担割合にもよりますが9割が税金(介護報酬)で賄われています。

要介護度地域密着型通所介護の場合
要支援1・2市町村によって単位数は異なる
要介護1739単位 = 約7,390円
要介護2873単位 = 約8,730円
要介護31012単位 = 約10,120円
要介護41150単位 = 約10,180円
要介護51288単位 = 約12,880円
※利用時間7時間以上8時間未満の場合、2021改定版

収益計算の例

東京23区にお住まいの要介護3の方が、週に3回通所介護を利用する場合

計算方法

1012単位 × 12(週3回×4(月) = 10752単位
10752単位 × 11.40円 = 122,572円

利用者負担1割の場合、利用者が支払う額は約12,000円となります。以上説明したのが基本報酬となり、これに加算というものが付きます。

通所介護の主要な加算

加算の種類内容
個別機能訓練加算個別機能訓練加算Ⅰ | 単位数 46単位/日
個別機能訓練加算Ⅱ | 単位数 56単位/日
入浴介助加算単位数 40~55単位/日 = 約500円
栄養改善加算・口腔機能向上加算単位数 150単位/回 = 約1,500円
中重度ケア体制加算単位数 45単位/日 =約450円
介護職員処遇改善加算加算Ⅰ:介護職員1人当たり月額37,000円相当の加算
加算Ⅱ:介護職員1人当たり月額27,000円相当の加算
加算Ⅲ:介護職員1人当たり月額15,000円相当の加算
加算Ⅳ:介護職員1人当たり月額13,500円相当の加算
加算Ⅴ:介護職員1人当たり月額12,000円相当の加算
※2021年8月現在

介護事業の収入の大部分を占める「基本報酬」ですが加算を算定すると、サービスに応じた単位数が計上されます。

算定できる基準は加算によって異なりますが、介護職員処遇改善加算の算定や入浴介助加算などの算定は必須となります。

通所介護は儲かるのか?

業態→地域密着型通所介護通常規模型通所介護大規模型通所介護(Ⅰ)
黒字(稼働率)447事業所(72.5%)1838事業所 (73.3%)181事業所(78.4%)
赤字(稼働率)321事業所(63.5%)1183事業所 (67.0%)48 事業所 (74.6%)

独立行政法人福祉医療機構:2019 年度(令和元年度)通所介護事業所の経営状況についてによると約4割の事業所が赤字でした。

赤字の事業所と黒字の事業所の違いとは

  1. スタッフの定着率が高い
    介護業界では慢性的な人手不足であり、スタッフの職場に対する満足度が高ければ高いほど定着率が担保されます。定着率が高いと利用者の満足度も高くなり、利用者紹介数も向上する傾向にあります。
  2. 自社の強みを打ち出している
    自社の通所介護は何を強みにしているか。何を売りにしているか。他社の通所介護と差別化を図れているかが重要なポイントになります。
  3. 稼働率が高い
    稼働率とは「1ヶ月の延利用者数÷利用定員数×1ヶ月の営業日数」です。デイサービでは稼働率が経営するにあたってのKPI(重要指標)となり、稼働率が高ければ高いほど売上が大きいといえます。
    例)定員40名の事業所で1月(営業日数25日)の利用者数が800人の場合
    稼働率=800÷25×40=0.8

デイサービスの開業までに必要なこと

デイサービスの開業までにあらかじめ決めておくこと・行っておくことは主に以下です。

  • 事業計画書の作成
  • 経営理念の決定
  • 事業概要の決定
  • マーケティング戦略の立案
  • 開業に掛かる費用の確認

具体的にひとつずつ、詳しく確認します。

事業計画の作成

事業計画書とは、事業の構想を見える化したものです。

「誰に対して」「どんな方法で」「どうやってサービスを提供するのか」を見える化しましょう。

事業計画書は下記3点の理由で必要になります。

  • 「都道府県と市町村の事業所指定」を受けるための提出資料
    通所介護を開業するためには「都道府県と市町村の事業所指定」が必要になります。
    新規参入の場合は膨大な資料の提出が求められており、事業計画書もその1つです。
  • 融資を受ける際に金融機関への提出
    開業にかかる資金は、金融機関から融資を受けて開業資金に企てるケースがあります。
    金融機関も「しっかりと返せる事業」にしか資金を貸さないのでその判断材料として事業計画書が必要です。
  • 今後の売上の見通しを立てる
    通所介護を開業するということは、経営を安定させ、事業所をつぶさない事が一番重要視されます。
    1年後・2年後・3年後といったように収支計画を立てるために事業計画書は必要です。

経営理念を決める

介護事業所が経営活動を行っていくうえで、最も根本にある価値観ともいえるものが経営理念です。

経営理念がないと「誰の為にどんなサービスをどうやって提供するのか」が明確にならないため、必ず設定しましょう。

経営理念はMISSION,VISION,VALUE(MVVとよく言います)を軸に作られるので、参考にしてください。

MISSION-存在意義「社会(地域)の中で果たす役割」

例)地域住民の尊厳を重視し、福祉サービスを提供することで地域に貢献します。

VISION-ありたい姿「中長期的に目指す状態」

例)介護スタッフがプロ意識を持って、最大限満足が得られるサービスを提供します。

VALUE-価値観「組織に中の共有の姿勢」

例)地域住民から最も信頼される事業所を目指します。

※とても大切な経営理念です。あくまで例なので鵜呑みにせず、時間をかけて考えてください。

事業概要を決定する

事業概要は大まかに「経営テーマ」と「事業内容」に分かれ、ひとことで事業を言い表すキャッチコピーに相当します。

経営テーマ

この事業を一言で表現したもの

○○市に開設する高齢者向けの自立支援特化型の通所介護事業所

事業内容

誰に、どんな方法で、何を提供するのか

○○市に住む高齢者に、満足いただける介護サービスを、介護現場のプロが提供する

マーケティング戦略を決定する

マーケティングとは、通所介護事業所のサービスを利用してもらうための”強み”です。

他事業所と似たサービスは新規利用者が来ないリスクがあるので、しっかりと考えましょう。強みや特徴が練られたらホームページに内容を落とし込んでいきましょう。ホームページを作る場合は「介護事業に特化したホームページ制作会社」に委託するのがおすすめです。

通所介護の仕様住み慣れた地域で、今まで通り健康を維持して暮らすことができる
通所介護の特徴・訴求ポイント・レクリエーションが豊富
・PT(理学療法士)がいるので、自立支援が得意
ノウハウ地域住民の声を聞き、どんなサービスがいいかアンケート調査をする。
専門家に依頼し、よく打ち合わせをおこなう

開業に掛かる資金(費用)一覧

費用項目内訳概算金額
法人設立費合同会社・株式会社・一般社団法人の設立費用11~25万円
改修費用バリアフリー等のリフォーム代。※状態によって異なります。200万前後
指定申請費都道府県の県庁に介護事業所指定を行います3万円
広告宣伝費チラシ・パンフレット・ホームページ・名刺約50万円
人件費介護報酬の売上が入るのは2ヶ月先なので余裕をもった人件費が必要約800万円
車両費スロープ付きの送迎車:中古相場50万円~120万円約70万円
備品机・キャビネット・パソコン・介護用品等約30万円

通所介護の開業には約1200万円必要になります。融資を受ける事も可能なので、自己資金は約400~500万円あれば大丈夫です。

事業計画書を書いてみよう!

  1. 企業の概要
  2. 事業の概要
  3. 事業のコンセプト
  4. 従業員の状況
  5. 競合や市場規模などの環境面
  6. 自社の弱み強み
  7. サービスや商品の概要
  8. 販売戦略やビジネスモデル
  9. 体制や人員計画
  10. 財務計画

これら10項目を記載します。

デイサービス開業時の法人設立の準備事項

ここでは主要な法人形態を解説し、デイサービスにおすすめな法人形態を紹介します。

通所介護にオススメの法人種別

厚労省:令和元年介護サービス施設・事業所調査の概況

介護事業所における法人種別は2つあり「営利法人」or「非営利法人」にわかれます。

営利法人メリットデメリット
合同会社立ち上げ費用が安い、倒産してもリスク低信頼度が薄い
株式会社信頼度が高い立ち上げ費用が高い
非営利法人メリットデメリット
社会福祉法人補助金や税金が優遇される基本的に設立できない
NPO法人寄付金に課税されない立ち上げ書類が膨大:役員10人以上必要
一般社団法人社会的信用が高い余剰利益が出た場合、社員に分配できない

非営利法人は税金面でのメリットは大きいものの立ち上げの要件が厳しいため、代表1人や2人でどうしても非営利法人が良い場合は一般社団法人一択です。
ただし、一般社団法人も書類審査や立ち上げが難しいので通所介護では「営利法人」をオススメします。

営利法人は有限会社・合同会社・株式会社・合資会社・合名会社等に分かれていますが、コスト重視なら合同会社が最もオススメで費用も11万円と他と比べ安い傾向にあります。

法人設立書類の作成

今回は合同会社を例に解説します。合同会社とは合同で会社を設立するのではありませんので注意!有限会社と同じです。

  • 合同会社設立登記申請書
  • 登記用紙と同一の用紙
  • 定款2部
  • 代表社員の印鑑証明書
  • 払込証明書
  • 印鑑届書
  • 代表社員就任承諾書
  • 本店所在地及び資本金決定書

※定款には必ず「介護保険法に基づく居宅サービス事業」の記載が必要です。

申請してから約1週間ほどで完了します。

通所介護(デイサービス)の3つの指定基準

通所介護を開業するための指定基準は「人員基準」「設備基準」「運営基準」の3つです。

人員基準

人員基準は資格要件を満たし、必ず配置しなければなりません。3年に1度の実地指導で引っかかりやすいので適切なスタッフを募集しましょう。

職種・役職配置条件資格要件
管理者1名以上資格要件なし
生活相談員1名以上(兼務可)介護福祉士
社会福祉士
精神保健福祉士等
看護職員1名以上(※)看護師
准看護師
介護職員1名以上資格要件なし
機能訓練指導員1名以上理学療法士
作業療法士
言語聴覚士
看護師
はり師
きゅう師
※利用定員が10人未満の場合配置基準はありません。

管理者は原則として2職種のみの兼務が認められています。管理者が介護福祉士等の資格所持者の場合は生活相談員との兼務も可能です。

設備基準

食堂及び機能訓練室

利用者1人に対して合計面積が3㎡以上であることが条件になります。

相談室

利用者の個人情報漏洩のため区切りが必要です。主に新規利用者への対応等や会議に使われます。

事務室

部屋の大きさ規定はありませんが下記の4点は必ず必要になります。

  • イス
  • 書庫
  • 鍵付きのキャビネット

静養室

部屋の大きさに規定はありませんが、ベッドを設置したり照明を調節したり利用者が静かに過ごせる場所が必要です。

トイレ

手すりや緊急呼び出しのコールを設置しなければなりません。

厨房

感染症(ノロウイルス・食中毒)を防げるように衛生管理ができる環境を整える必要があります。

浴室

脱衣場・浴槽を設置します。足元が滑りやすくなるため排水処理は徹底しましょう。

消防設備

スプリンクラー・消火器の設置基準が設けられています。

運営基準

  • 利用申込者に対するサービスの提供内容および手続の説明および同意
  • 提供拒否の禁止
  • 被保険者資格、要介護認定の有無および要介護認定の有効期間の確認
  • サービス担当者会議等を通じた心身の状況等の把握
  • サービスの提供の記録
  • 利用料などの受領
  • 訪問介護計画の作成および利用者の同意
  • 利用者に関する市町村への通知
  • 利用者の病状の急変など緊急時における主治医への連絡等の対応
  • 事業運営についての重要事項に関する規程(運営規定)の制定
  • 介護等の総合的な提供
  • 訪問介護員等の健康状態の管理、設備、備品等についての衛生管理
  • 苦情を受け付けるための窓口の設置等苦情処理に必要な措置および記録
  • 事故発生時における、市町村、利用者の家族、居宅介護支援者等への連絡等必要な措置と記録

指定申請書類の作成

指定申請とは、介護事業を行うにあたり、 都道府県、指定都市、中核市、区市町村などに届け出て介護保険法に基づく介護事業者としての指定を受けることをいいます。

介護保険法に基づく必要書類

都道府県によって内容は若干異なるので該当される介護保険課のホームページを参考にしてください。

  • 指定申請書
  • 指定許可申請手数料:30,000円
  • 法人登記事項証明書(一般的には登記簿謄本といわれています)
  • 運営規程
  • 管理者の経歴書
  • 従業者の勤務の体制及び勤務形態一覧表
  • 生活相談員又は支援相談員の経歴書
  • 資格証の写し
  • 事業所平面図
  • 居室面積等一覧表
  • 事業所建物等の権原を示す書類の写し
  • 事業所の写真(外観・内観の写真※鍵付きのキャビネット等の写真)
  • 設備・備品等一覧表
  • 利用者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
  • 協力期間との契約書の写し(組織図で良い場合もある)
  • 貸与する福祉用具の保管及び消毒の方法
  • 受託サービス事業者が事業を行う事業所(賃貸借契約書・使用承諾書でOK)
  • 重要事項説明書、誓約書
  • 社会保険及び労働保険への加入状況にかかる確認票
  • 介護給付費算定に係る体制等に関する届出書
  • 介護給付費算定に係る体制等状況一覧表

筆者は自分で指定申請を行いましたが、書類になれている場合は2日以内で作成できます。

デイサービス開業までのスケジュール

通所介護を開業するうえで、膨大な書類が必要になりますので手当たり次第に作成したりせず、スケジュールを組んで1つ1つ確認しながら計画的に行いましょう。

今回記事を書くと同時に通所介護の開業までの手引きを用意しました。(2021/8/29公開予定)

ぜひ参考にしてください。

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以下に必要事項をご記入の上、登録いただいたメールアドレス宛にガイドブックのダウンロードURLを送付致します。今後の事業運営にぜひお役立てください。

まとめ

今回は、通所介護の立ち上げ方法を一通り解説しました。
筆者も自分で介護事業所を立ち上げたので大変さは十二分に把握しています。

弊社Professional Care Internationalでも開業支援をしておりますので、解らない事・何から手を付け始めていいかわからないという方はお気軽にお電話ください。

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