【専門監修】訪問介護の倒産が増える理由と、資金繰りを崩さない立て直しの順番
訪問介護の倒産は、統計上も「増えている」と言える局面に入っています。東京商工リサーチの集計では、2025年の訪問介護事業者の倒産(負債1,000万円以上)は91件で、介護保険制度開始(2000年)以降で過去最多を更新しました(東京商工リサーチ「2025年『訪問介護』倒産 91件、3年連続で最多更新」)。
倒産の多くは「突然起きた事故」ではなく、資金繰り・稼働・人件費が、じわじわ噛み合わなくなった末に起きます。
公定価格で価格転嫁が難しい構造の中で、ヘルパー不足と物価上昇が同時に進み、経営判断を先送りしにくい環境です。
この記事でわかること
- 訪問介護の倒産が増えているのはなぜか
- 黒字の月があるのに資金が尽きるのはなぜか
- いま厳しいなら、何から手を付けると戻りやすいか(加算・人材・運営指導の詰まりどころ)
こうした疑問に対して、倒産データ、訪問介護の経営指標、介護報酬・処遇改善の公式資料を根拠にしながら、経営者が確認すべき数字と打ち手をまとめます
訪問介護の倒産はなぜ増えているのか
2025年は倒産91件、売上不振が8割超
東京商工リサーチによると、2025年の訪問介護事業者の倒産91件のうち、原因別では「売上不振(販売不振)」が75件で8割超を占めます。規模面でも、従業員10人未満が約9割、資本金500万円未満が8割という小規模事業者が中心でした。
訪問介護の倒産が増える理由は、きれいな一言で片付きません。現場で起きているのは、だいたい次の同時進行です。
- 人が採れない・辞める → 提供できる枠が減る → 売上が落ちる
- 人件費・移動コスト(燃料等)が上がる → 利益が薄くなる
- 収益が見えず、再建より破産を選ぶ(実際に倒産形態の多くが破産)
「倒産」と「廃業(休廃業・解散)」は同じではない
「倒産」は、一般に支払い不能などに陥り、破産など法的整理に至るケースを指します。調査機関の集計では「負債1,000万円以上」など条件が置かれていることが多いです(東京商工リサーチも同条件で集計)。
一方で、資金が尽きる前に自主的に店じまいする「休廃業・解散」もあります。経営者が判断していれば、利用者・職員への影響を抑えやすい場面もあります。倒産だけを見て「業界が全部だめ」と判断するのではなく、自社の資金繰りと継続条件で判断する方が安全です。
令和6年度改定で「訪問介護の基本報酬が下がった」
倒産の背景として、訪問介護の基本報酬(身体介護・生活援助等)の見直しに触れる報道が増えました。実際に令和6年度(2024年度)改定では、訪問介護の単位数が改定されています(厚生労働省資料「介護報酬の算定構造(訪問介護)」)。
ここで注意したいのは、「報酬が下がったから倒産する」という単純な話ではない点です。単位の増減はきっかけにはなりますが、倒産を決めるのは、資金繰り・稼働・人件費のズレが戻らない状態になったかどうかです。
倒産が起きやすい訪問介護の損益構造
人件費率が高く、赤字事業所の割合も高い

福祉医療機構(WAM)の「経営分析参考指標(2023年度決算分)」では、訪問介護のサービス活動収益に対する人件費の割合は平均で74.4%とされています。また、経常増減差額が0未満(赤字)の事業所の割合は45.5%でした(WAM「≪経営分析参考指標≫2023年度決算分-訪問介護の概要-」)。
売上の大半が人件費に吸収される構造なので、稼働が少し落ちるだけで赤字になりやすい。
専門家の声「訪問介護は“単価を上げる”より前に“稼働を落とさない仕組み”が勝負」という見立てが多いです。
黒字でも倒産している現状。資金繰りが先に切れる
「損益計算書(PL)では黒字なのに、資金が回らない」事業所は珍しくありません。訪問介護は、請求から入金まで時間差が出ます。加えて、以下が重なると、黒字でも資金が尽きます。
- 賞与や退職金、社会保険料の増加など、支出が一時的に跳ねる
- 国保連の返戻・過誤が増え、入金が遅れる
- 借入返済が固定化している(元金返済が続く)
- 処遇改善などで「支払うべきお金」を先に出して、精算が後ろになる
この状態で「来月は忙しくなるはず」と期待で回すと、倒産の引き金になりやすいです。
小規模ほど「稼働のブレ」が致命傷になる
東京商工リサーチの集計では、倒産した訪問介護事業者の多くが小規模(従業員10人未満)です。
小規模の強みは意思決定の速さですが、反面、1人辞める・1つの紹介元が止まる・数人の入院が重なる、といった揺れが売上に直結します。
経営判断のヒントとしては、「利用者数」より「提供できる延べ時間(枠)」が先に減っていないかを見ることです。枠が減っているのに採用が追いつかないなら、営業強化より先に、提供範囲・移動・勤務の組み替えが必要になります。



特に冬(10〜12月)と夏(6~8月)は季節の変わり目ということもあり、利用者の体調不良の悪化による入院や施設入所が非常に多い傾向があります。訪問介護単独事業所だと、売上の変動が多く、一月で200万円ほどの差分が起きるケースも。
専門家に頼るのも手
本メディアを運用しているProfessional Care International 株式会社では、経営支援サービスを日本全国の介護事業者向けに提供しています。専門家に相談することで、「何から手をつけ始めていいかわからない」、「何もわからないので、どうすることもできない」こんな悩みを解決できます。
まずは、専門家による「無料経営相談」を検討してみてください。
倒産の前に出やすいサイン
資金繰りが厳しいときほど、現場は忙しくなり、数字を見る時間が減ります。そこで、倒産の前に出やすいサインを「事実ベース」で並べます。該当が多いほど、今月ではなく「来月以降の入金」が危険です。
この表は、訪問介護の倒産につながりやすい兆候を、資金繰り・稼働・人材・請求の観点でまとめたものです。
| 観点 | サイン(現場で起きること) | まず確認する数字・書類 |
|---|---|---|
| 資金繰り | 通帳残高の山谷が大きい/支払いの先延ばしが増える | 13週の資金繰り表、借入返済予定表 |
| 稼働 | キャンセルが増え、穴埋めできない | サービス提供実績(週単位)、空き枠一覧 |
| 人材 | 退職が続き、サ責が常に穴埋めに入る | 離職理由の記録、勤怠、残業時間 |
| 請求 | 返戻・過誤が増え、入金が読めない | 国保連の返戻内訳、請求チェック表 |
| 加算 | 期末に賃金改善の帳尻が合わない | 処遇改善の配分表、支給実績、繰越額 |
まず立て直す順番は「資金繰り→稼働→人件費」
厳しい局面で「売上を上げたい」と思うのは自然ですが、順番を間違えると空回りします。倒産を避けるために最初にやるべきは、資金が尽きる日を可視化して、打ち手の期限を決めることです。
13週(3ヶ月)の資金繰り表を作る(入金日まで書く)
13週(約3か月)で構いません。週ごとに「入金」「支払い」「差引残高」を並べます。ポイントは、売上ではなく入金で書くことです。
処遇改善加算のQ&Aでも、賃金改善の支払いタイミングに関連して「国保連合会からの入金は、通常、サービス提供月の翌々月」と整理されています(厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関するQ&A」)。
国保連の支払日は自治体・国保連の運用で異なる場合があるため、自社の入金実績で固定してください。
資金繰り表ができると、次の判断ができます。
- いつまでに稼働を戻す必要があるか
- どの支払い(家賃、車両、外注、借入返済)が重いか
- 相談すべき相手(金融機関、税理士、社労士、指定権者)が誰か
数字を一人で抱えるのが難しい場合は、無料経営相談で、資金繰り表と請求状況を並べて優先順位を決める方法もあります(プロケアの無料経営相談でも、状況整理の壁打ちが可能です)。
「新規を増やす」より、空き枠を先に埋める
訪問介護は、同じ利用者数でも「空き枠の穴」が増えると一気に崩れます。紹介営業や新規獲得を否定するわけではありませんが、まずは既存の枠を埋める方が早いことが多いです。
- キャンセル枠を埋めるための「当日対応枠」を決める(誰が何時まで動けるか)
- 提供エリアを一度狭め、移動時間を減らす
- 同一曜日・同一時間帯に偏っていないかを見直す
WAMの指標でも、訪問1回当たりサービス活動収益や、1月当たり訪問回数などが示されており、稼働の改善が経営に直結することが読み取れます。
人件費は「削る」より「稼働と合わせる」
訪問介護の人件費は、単純に削るとサービス品質と採用に跳ね返ります。そこで、先に「稼働に合わせる」発想に切り替えます。
- 直行直帰の範囲を見直す(移動が長い職員が固定化していないか)
- サ責が現場に出過ぎていないか(本来の業務が止まると、請求・計画が遅れる)
- 非常勤の比率と、常勤の穴埋め残業が逆転していないか



「人件費の問題は“給与水準”より“訪問の組み方”で解ける部分がある」というケースが多いです。たとえば、同じ8時間でも移動と待機が増えると、売上は伸びません。
固定費・経費は「契約」を見直す(いきなり品質を落とさない)
資金繰りが厳しいと、真っ先に経費を切りたくなります。ただ、消耗品を削り過ぎたり、研修を止めたりすると、品質と離職に跳ね返ります。先に見直しやすいのは「契約で固定化している支出」です。
- 車両関連(リース・保険・駐車場)を、台数と稼働の実態に合わせる
- 通信費・システム利用料を、使っていないアカウントや回線から止める
- 外注(清掃、事務代行等)の範囲を「繁忙期だけ」に寄せる
経費削減の具体例は、介護事業所ですぐに取り組める経費削減の考え方にも整理しています。
収入を伸ばす打ち手は「加算」と「返還を出さない運用」
訪問介護の収益改善では、加算の取り方が大きく効きます。ただし、加算は取れば終わりではなく、運用と記録が崩れると返還や過誤につながります。
特定事業所加算は「体制」と「記録」が回せるかで決める
特定事業所加算は、一定の人員体制・研修・会議・記録など、日々の運営が前提になります。要件の確認だけで止まりやすい加算でもあるため、算定を検討する場合は、体制を組めるか、記録を残せるかを先に点検しておくと安全です。
制度面の要点と実務の残し方は、特定事業所加算(訪問介護)の算定要件と実務で確認できます。
処遇改善は「賃金改善の着地」と「閉じ方」で詰まりやすい
処遇改善は、人を守るために必要な一方で、資金繰りを圧迫しやすい論点でもあります。特に、期末に「賃金改善が足りない」「配分の根拠が説明できない」となると、経営を直撃します。
賃金改善額が加算額を下回った場合、返還の対象となる。
(厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関するQ&A」)
期末に慌てないためには、月次で「加算の見込み額」「賃金改善の実績」「繰越見込み」を並べて管理します。
また、事業の休廃止・譲渡を検討している場合、処遇改善の扱いは早めに確認が必要です。Q&Aでは、事業廃止などで賃金改善の実施が困難になる場合の考え方も示されています(同Q&A)。
自治体の取扱いで追加の手続きが求められる可能性もあるため、指定権者への確認もセットにしてください。
処遇改善の要件や配分の考え方は、介護職員等処遇改善加算の算定要件と実務にもまとめています。
加算を「回す仕組み」が弱いなら、先に事務負担を減らす
加算や運営指導の準備が管理者・サ責の手作業に寄り過ぎると、忙しい月ほど崩れます。委員会・研修・規程類の更新を仕組みで回したい場合は、業務の仕組み化を支援するサービス(例:プロケアDX)を検討する方法もあります。
人手不足を倒産につなげないために、採用より先に離職を止める
「採用できないから倒産する」のではなく、「離職で稼働が落ち、稼働を戻せずに倒産する」流れが多いです。採用活動と同じくらい、離職を止める設計が効きます。
給与以外で離職が起きる理由を潰す
訪問介護で離職理由になりやすいのは、給与だけではありません。
- 移動が長く、1日の訪問件数が増えない
- 記録・報告が多く、残業が常態化する
- 利用者対応の困りごとを相談できない
- サ責が忙しく、教育が途切れる
改善の入り口は「移動」と「記録」です。移動時間の偏りを見える化し、記録の様式を統一して、書く量を減らす。ここが整うと、同じ人数でも稼働が上がります。
離職率の考え方と具体策は、介護事業所の離職率を下げるための対策でも掘り下げています。
サ責が詰まると、稼働と請求が同時に落ちる
サ責は、訪問介護の要です。サ責が現場の穴埋めに入り続けると、計画作成・モニタリング・サービス担当者会議・事務確認が遅れ、請求も遅れます。結果として、稼働と入金が同時に落ちる形になります。
「サ責を現場に出さない」ではなく、「出る回数を決め、代替の動きを作る」方が現実的です。たとえば、短時間の新規・変更は事務と分担し、サ責は判断が必要なケースに集中する。こうした割り切りが、倒産回避に直結します。
運営指導・監査で資金繰りが止まるパターン
倒産リスクは、売上や採用だけではありません。運営指導での指摘が過誤調整や返還につながると、想定していた入金がずれ、資金繰りが一気に厳しくなります。
訪問介護計画と記録が「実態どおり」になっていない
自治体の集団指導資料では、訪問介護計画と居宅サービス計画(ケアプラン)の内容が相違している、サービス提供記録の実施時間が一律で実態が反映されていない、といった指摘事例が示されています(堺市「令和8年度介護保険施設・事業所等集団指導資料・居宅事業所編」(PDF31〜32頁))。
現場の一コマとしては、運営指導の当日、記録は揃っているのに「訪問時間が毎回同じ」「変更理由が書かれていない」ことを指摘され、その場で過誤調整の可能性が話題になり、月末の入金見込みが読めなくなる、という場面があります。
運営指導の全体像と、監査との違い、準備の考え方は、介護業界の運営指導とは何かにまとめています。


減算の根拠書類が抜けると、あとから戻せない
自治体が公表する指摘事項では、減算の判定・根拠書類の作成保存が求められる点も明記されています(例:同一建物減算に関する確認書類の作成・保存・提出)(水戸市「令和6年度運営指導における指摘事項(抜粋)」)。
「普段は対象じゃないから」と作っていないと、後から作り直すのが難しい書類があります。運営規程・重要事項説明書・料金表の更新も同様で、版ズレのまま運営すると説明が止まりやすいです。
続けるか、譲るかの判断軸(倒産の前に選べる道)
倒産は「選べない終わり方」になりやすい一方で、休廃止や事業譲渡は、準備すれば影響を抑えられる可能性があります。
3か月で戻せるかを見る(数字で決める)
判断を感情に寄せると、先延ばしになります。3か月で戻せるかを、次のような数字で見ます。
- 13週資金繰りで、資金残高が底を打たないか
- 稼働(提供枠)が増える見込みがあるか(採用・復職・配置換え)
- 返戻・過誤の原因が潰れているか
- サ責と管理者の負荷が下がる見込みがあるか
戻せる見込みが薄いなら、早めに「譲る」「縮める」選択肢も検討した方が、利用者と職員にとって結果が良い場合があります。
事業譲渡・M&Aは「守り」と「継続」を両立しやすい
訪問介護は、地域の紹介ネットワークと人材が資産です。事業を閉じる前に、事業譲渡やM&Aで引き継ぐ選択肢を検討すると、利用者の受け皿を確保しやすくなります。
進め方や基礎知識は、初めての介護業界M&A・事業譲渡ガイドにまとめています。
なお、資金繰りの立て直しと、譲渡・休廃止のどちらが現実的かは、数字を並べないと判断がぶれます。第三者に整理してもらうだけでも進みやすくなるため、無料経営相談で現状を棚卸しするのも一つの方法です。
まとめ
- 訪問介護の倒産は、2025年に91件と過去最多を更新し、小規模事業者に集中しています。
- 倒産の背景は「人手不足×売上不振×コスト上昇」が重なる形で、資金繰りが先に切れやすい構造です。
- 立て直しは、資金繰りの可視化(13週)→稼働の穴埋め→人件費を稼働に合わせる順で進めると戻りやすいです。
- 加算は収益改善に効きますが、運用と記録が崩れると返還や入金遅れにつながるため、月次管理が欠かせません。
- 継続が難しい場合でも、倒産の前なら「縮める」「譲る」選択肢を取れる余地があります。





