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訪問介護の現場では、計画書にないゴミ出しや薬の受け取りといった「記録に残らない業務」が常態化しやすく、運営指導で未記載のサービス提供を指摘される火種となっています。
「どこまでが生活援助に含まれるのか?」「サービス外の対応を依頼されたとき、現場はどう断ればいいのか?」実際の現場での事例も含めて、わかりやすく解説していきます。
この記事でわかること

シャドーワークとは、本来の業務範囲に含まれるべきでありながら、報酬や賃金の支払い対象となっていない隠れた労働を指します。訪問介護では、利用者の過剰な要望に応えてしまう「サービス外活動」がこれに該当し、経営を圧迫する要因となります。
訪問介護におけるシャドーワークは、大きく分けて「利用者への過剰サービス」と「ヘルパーの付帯業務」の2つがあります。
利用者への過剰サービスとは、例えば同居家族がいる場合の調理や、庭の草むしり、ペットの世話など、介護保険制度上、算定が認められていない行為を、ヘルパーが「善意」で行ってしまう状態です。
一方で付帯業務とは、移動時間中の物品購入や、自宅での記録作成、事業所に戻ってからの長時間の情報共有などが、適切な労働時間としてカウントされていないケースを指します。
これらは訪問介護の倒産が増える理由の一つである、収益性の低下と人材不足に直結する深刻な課題です。
訪問介護は密室で行われるサービスであるため、利用者からの「ついでにこれもお願い」という依頼を拒否しにくい心理的背景があります。特にベテランのヘルパーほど、利用者との関係性を重視するあまり、サービス提供責任者に報告せず、独断で「ちょっとしたことだから」と計画外の対応をしてしまいがちです。
しかし、この「ちょっとしたこと」の積み重ねが、運営指導において「訪問介護計画に基づかない不適切なサービス」とみなされるリスクを生みます。また、介護現場リーダーの役割として、現場で起きている「声なき業務」を吸い上げ、制度の枠組みを守る体制づくりが求められています。

厚生労働省の通知では、訪問介護で提供できるサービス内容が厳格に定められています。シャドーワーク化を防ぐには、まず「何が算定できて、何ができないか」という一次情報の把握が不可欠です。
原則として、利用者本人の援助に該当しないものや、日常生活を営む上で支障がないと判断される行為は算定できません。厚生労働省の「訪問介護サービスの生活援助の取り扱いについて」では、以下の内容が制限されています。
質問:家事援助の中身はどのようなもの?
回答:介護保険で利用できる家事援助とは、掃除、洗濯、調理などの日常生活のためのサービスです。具体的な例としては、次のようなものです。掃除、洗濯、調理、その他。
介護保険は、みなさんの保険料や公費によってなりたつものです。このため、原則として、次のようなサービスは支給の対象とはならず、ご自分のお支払いで利用していただくことになります。
①本人以外の部屋の掃除など、家族のための家事
②庭の草むしりなど、ホームヘルパーがやらなくても普段の暮らしに差し支えがないもの
③大そうじなど、普段はやらないような家事
現場では、この「本人以外のため」という境界線が曖昧になりがちです。例えば、利用者の居室だけでなく、家族が使うリビングまで掃除してしまうことは、シャドーワークであると同時に不適切請求のリスクを孕んでいます。
また、銀行の窓口での預金引き出し代行なども、トラブル防止の観点から原則として算定対象外、あるいは極めて慎重な対応が求められます。これらを「サービス」として無償で行うことは、ヘルパーの負担を増やすだけでなく、事業所としての賠償責任問題にも発展しかねません。
専門家の声『今回だけは』という例外を作ると、他のヘルパーが訪問した際にも同様の要求をされ、現場が混乱します。事業所として、算定できないサービスの一覧を作成し、契約時に利用者と家族へ徹底して説明しておくことが、シャドーワークを生まない最短ルートです。
運営指導(旧:実地指導)において、行政は「計画書」「記録」「請求」の一致を厳しく確認します。シャドーワークが存在する場合、この一致が崩れ、不正請求や不適切運営とみなされるケースが後を絶ちません。
最も多い指摘は、訪問介護記録(テレッサや紙の伝票)に、計画にない行為が記載されているケースです。良かれと思って書いた「電球を交換しました」「ついでに窓拭きをしました」という記録が、運営指導では「ケアプラン外のサービス提供」として返還指導の対象になります。
また、記録には書いていなくても、滞在時間が予定より大幅に長い場合、行政は「何を行っていたのか」を疑います。1時間の身体介護の予定が、毎回80分かかっているような場合、超過した20分間にシャドーワークが行われていると推測されます。
適切な運営を証明するためには、まず「できないこと」を依頼された際の対応を記録に残すことが重要です。ヘルパーが現場で断った経緯、あるいは一旦持ち帰ってサービス提供責任者に相談した経緯を、支援経過記録に克明に記します。
また、利用者からの強い要望があり、どうしても介護保険外で対応が必要な場合は、全額自己負担の自費サービスを別契約で切り分けるなどの対策が必要です。これにより、介護保険の枠組みを守りつつ、利用者のニーズに応えることができます。
対応記録の必須項目
現場の一コマ:運営指導当日、ある事業所ではヘルパーが「親切心」で書いていた「仏壇のお花を替えました」という一文が発見されました。行政担当者から「これは誰のニーズに基づいた、どの計画の行為ですか?」と問われ、事業所側は答えに窮し、最終的にその日の給付費全額の返還を求められる結果となりました。


現場で発生したサービス外の依頼をシャドーワークとして埋もれさせないためには、ケアマネジャー(介護支援専門員)との適切な情報共有が欠かせません。ヘルパーが抱え込んだ「断りきれない要望」を組織として報告する体制を整えます。
ケアマネジャーは、利用者や家族の生活全般を支えるプランを立てますが、訪問中の細かなやり取りをすべて把握しているわけではありません。例えば「掃除のついでに庭の草もむしってほしい」といった要望が繰り返される場合、それは利用者の新たな困りごと(ニーズ)のサインでもあります。
これを「サービス外だから」と現場で切り捨てるだけではなく、速やかにサービス提供責任者を通じてケアマネジャーへ報告します。報告の際は、単に「困っている」と伝えるのではなく、回数や具体的な内容を数値化して伝えると、ケアマネジャーもプラン変更の必要性を判断しやすくなります。
シャドーワークを未然に防ぐ最大の機会は、サービス担当者会議です。ここで「訪問介護として提供できる範囲」と「できない範囲」を明確にし、多職種間でシャドーワークの線引きの共通認識を持っておくことが、現場を守る盾になります。
もし介護保険外の支援が不可欠であれば、ケアマネジャーに対して、自治体の独自サービスやボランティア、あるいは事業所が展開する自費サービスの導入を提案します。これにより、ケアマネジャーの処遇改善加算などの議論と同様に、適切な役割分担に基づいた質の高いケアマネジメントが実現します。



ケアマネジャーは、ヘルパーが無理をしてサービス外の対応をしていることを知らないケースが多々あります。良かれと思って黙って対応することは、結果としてケアマネジャーの正しい判断を妨げ、プランの質を下げてしまう行為だと認識すべきです。
運営指導では、ケアマネジャーとの連携が適切に行われているかが厳しくチェックされます。シャドーワークになりそうな依頼があった際、どのようにケアマネジャーへ報告し、どのような指示を受けたかを支援経過記録に残しておくことが、不適切運営の疑いを晴らす強力な証拠になります。
記録に残すべき連携内容
現場の一コマ:運営指導において、ケアプランにはない「特別な調理」が常態化していると疑われた事業所がありました。しかし、その事業所は「利用者からの強い要望があり、ケアマネジャーへ即座に報告し、代行サービスを検討中である」という一連の経緯を時系列で記録に残していました。その結果、不適切請求ではなく「適切な連携プロセスにある」と評価され、指摘を免れました。
シャドーワークを「現場の円滑な運用のための必要悪」として放置することは、経営者にとって極めて危険な判断です。その代償は、単なる残業代の支払いだけにとどまりません。
デイサービスの経営改善などと同様に、訪問介護においても「提供時間の適正化」と「業務の標準化」が利益確保の鍵となります。
シャドーワークの温床となる「曖昧な記録」や「サービス提供責任者への報告漏れ」を防ぐには、デジタルツールの導入が効果的です。例えば、スマホで完結する記録システムを使用すれば、計画外の項目を選択できないように設定したり、滞在時間の乖離をリアルタイムで把握したりすることが可能です。
「何を残せば説明が通るか」を現場が迷わない仕組みを作ることが、結果として経営を守ることにつながります。もし、今の運用で「どこまでがセーフか分からない」という不安があるなら、まずは現在の記録体制をプロの視点で見直してみることをおすすめします。運用の型ができると、人が入れ替わってもサービス品質が安定し、経営者の精神的な負担も大幅に軽減されます。
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ヘルパーが現場でシャドーワークを断るには、事業所としてのバックアップが欠かせません。「事業所の決まりです」という言葉を盾にできるよう、具体的なマニュアルを整備します。
利用者から計画外の依頼をされた際、ヘルパーは以下のステップで対応するよう指導します。
このように、個人としての拒絶ではなく「制度上の制約」であることを強調することで、利用者との信頼関係の悪化を防ぎます。アセスメント作成方法を適切に行い、契約段階で「できること・できないこと」の認識合わせを済ませておくことも重要です。
現場で拾った「算定外のニーズ」は、必ずケアマネジャーにフィードバックします。もしそれが利用者の生活に不可欠なものであれば、ケアプランの変更や、他の社会資源(自治体の独自のサービスやボランティア、自費サービスなど)の導入を検討するきっかけになります。



介護コンサルタントとしてそして現場の人間としても、様々な施設および現場を見て言えることは、ケアマネジャーは現場の細かい要望をすべて把握しているわけではないということです。サービス提供責任者が『サービス外の依頼が増えている』という事実を数値化して報告することで、ケアマネジャーもプランの妥当性を再検討しやすくなります。これが結果として、適切な単位数(売上)の確保につながります。
最後に、自社の訪問介護事業所がシャドーワークの温床になっていないか、以下の項目でチェックしてみてください。
| 確認項目 | チェックのポイント | 対策 |
| 訪問記録の整合性 | 予定時間と実績時間に不自然な乖離がないか | ICT活用によるリアルタイムな時間管理の導入 |
| 記録の内容 | 計画にない行為(草むしり、家族の分など)の記載がないか | 定期的な記録の相互チェックと指導 |
| 移動時間の管理 | 移動中の買い出しや私用が常態化していないか | 走行距離や移動ルートの適正化 |
| 契約時の説明 | 重要事項説明書に「算定外項目」が明記されているか | 契約時の説明補助ツールの作成 |
| スタッフの心理 | 「断るのが申し訳ない」という空気が蔓延していないか | 現場での「お断り事例」の共有とロールプレイング |
この表は、訪問介護におけるシャドーワーク発生のリスクを確認するための指標を示したものです。
業務改善の5S活動を現場に取り入れることで、不要な業務を整理し、本来の介護サービスに集中できる環境を整えることができます。また、経費削減のアイディアを練る際も、まずはこうした「目に見えない労働コスト」の削減から着手するのが最も効果的です。
シャドーワークを排除することは、冷徹な判断ではありません。むしろ、ヘルパーを不当な労働から守り、事業所を法的リスクから守り、そして利用者に対して「介護保険という公正な制度」を提供し続けるための、誠実な経営判断と言えます。
運用を抜本的に見直すのはパワーが必要ですが、一度「正しい型」ができてしまえば、その後の経営は驚くほど安定します。今の記録方法や報告体制に少しでも不安を感じるなら、それは改善の大きなチャンスです。
シャドーワークの多くは、ケアマネと現場の情報共有不足から発生します。
典型的な流れは次の通りです。
つまり、ケアマネとの連携不足=シャドーワーク発生の最大要因です。
次のような変化があれば、即報告が基本です。
ポイントは実施してから報告では遅いということ。「依頼があった時点」での報告が理想です。
最初の一歩は、「計画外対応は必ず報告する」ルール化です。
おすすめルール
このルールを徹底するだけでも、ケアマネとシャドーワークの問題は大幅に減らせます。
訪問介護におけるシャドーワークは、ヘルパーの善意や現場の慣習から生まれやすいものですが、放置すれば運営指導での指摘や未払い残業代訴訟、そして離職率の悪化を招く深刻な経営リスクです。厚生労働省の通知やQ&Aに基づき、何が算定対象で何が対象外かを全スタッフが共通認識として持つことが、対策の第一歩となります。
重要なのは、個々のヘルパーに「断る勇気」を強いるのではなく、事業所として「ルールを守る仕組み」を提供することです。デジタルツールの活用やケアマネジャーとの密な連携を通じて、サービス提供の境界線を明確にしましょう。
書類やルールの整備は、一度作ってしまえば長く使える事業所の資産になります。「何を残せばいいか」「今の運用で本当に大丈夫か」と迷われたときは、専門のサポートを検討してみるのも一つの手です。現場の負担を減らしつつ、行政にも堂々と説明できる体制を整えることで、経営者としての安心感は格段に変わります。あなたが本来向き合うべき「より良い介護の追求」に専念できるよう、まずは足元の運用を整えるところから始めてみるのも良い選択です。
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